土間は、古来より家の中の床として使われ、縄文時代の竪穴式住居の時代よりある。直接その上に座ったり、寝たりするケースでは、上に藁やムシロを敷いて使用した。京都の町屋建築では、表の道路から、住居の奥まで続く、「通り土間(とおりにわ)」が必ず設けられ、人の通路としてだけでなく、風の通り道としても利用された。このつくりは、各地の宿場町などに建てられている町屋にもみられる。土間は、水や火を使用する台所や、玄関部分の人の出入りする部分に用いられる。農家などでは、農作業の手仕事部屋としての利用として、玄関としてだけでなく、おおきなスペースがとられた。また、明治頃までは、寝室を土間として、厚い藁の層を設け、その上にムシロを敷いた、ベッドのような利用方法も存在した。一見、貧困だから、床が張れずにそのようにしたという説や格式により、差別したということもあるようだが、この方法は、非常に暖かく、湿度の調整もなされ快適だったようだ。
土間の製造方法については、各地で、若干違うようだが、概ね似ており、「たたき」といわれる工法でなされている。
「三和土」と書いて、「たたき」と読ませることもあることから、多くは、粘性土、消石灰、にがり(あるいは塩)の三つの材料を混ぜて、専用の手道具でたたくことから由来しているのではないだろうか。
粘性土は、できれば山から掘り出されたばかりの若干の湿り気を含んだ粘り気のある土が良い。粘土とは違い、あくまでも土である。今では、なかなか手にいれることが、困難ではある。たまたま、愛知県では、まだ入手が可能である。
消石灰は、市販されているものを利用するしかないが、本来は、生石灰を反応させて、ゆっくり消石灰になったものを利用したようだ。土を固めるための凝固材の役目をする。
にがりは、水分供給のためにあるようだ。乾燥しやすい場所では、特に含有量を増やしたり、メンテナンスで、にがりの希釈液を散布したりするのに用いる。使用しないと、ドライアウトを起こして、表面が割れたり、ほこりが舞ったりするようになり、しっとり感がなくなる。また、カビの抑制効果や殺菌効果を高めるためにも含ませるようだ。
著者が、施工してきたケースでは、「二和土」で、粘性土と消石灰だけで施工している。ただし、メンテナンスには、上記のにがりの希釈液を必要とするケースもある。
薄い層を積み重ねるのではなく、10センチくらいの厚みを同時にたたいて仕上げる方がはがれにくいし、ドライアウトを起こしにくい。土の中に含まれる砂利なのど粒度分布が、微妙に仕上げに左右するので、経験をつまないとなかなかうまく仕上げることができない。
日本だけでなく、世界中で、土間の仕上げ方法があり、中国などでも、道具は違うが、まだ、現役で使用されている地域は各地にある。粘性土だけを、念入りにたたいて、仕上げることも、土の種類によってはできる。
現代の土間は、プランの中に持ち込むこともあり、土が湿度調節を行ってくれる場としての提供や、コンクリートの上より足が疲れないなどの効用もある。しかし、メンテナンスを怠ると土埃もたつので、メンテナンスに自身のある方だけにお勧めしたい。ただし、よく似た感触を楽しむために、工夫されたたたき専用の左官材料もあるので、それを試すことは、推薦できる。いずれにしても、土間のある暮らしは、郷愁ということもあるかもしれないが、工夫次第では、楽しい暮らしとなるのではないだろうか。